随想舎 

自然の美を棄てた日本人

笹川 浩延

 許せない、なにかおかしい…。その疑問の正体を探る。
 少年による殺人事件、政治家の違法献金問題、東日本大震災後四年を経ても仮設住宅暮らしを余儀なくされる人々……。毎日報道されるニュースの底の部分でつながっているものこそ、現代日本の宿痾なのだ。
 なんとも難しい時代になってしまった。理解を超えた事件も多発している。引きこもり、不登校、家庭内暴力、いじめ、DV、ストーカー、無差別殺人、ドラッグ、などが次々増えていく。そのたびに被害者、加害者の報道がなされ、原因究明、評論、対策がなされる。どれも深刻で、これといった打開策もなく、事態は広く、深く進行していく。しかし、この多様な病理現象の原因はひとつである。それは、明治維新によって、育児環境から自然の美が喪失したからだ。(本文より)

四六判/上製/312頁/定価1980円(本体1800円+税)
978-4-88748-311-8
2015年9月28日 第1刷発行

cartへ

著者プロフィール

笹川 浩延  ささがわ ひろのぶ

1945年栃木県生まれ。
一橋大学商学部卒。
大企業を経て、都庁にて商工指導所、8年勤務。
中小企業、主に印刷、製本、プレス、金型など多様な中小工場を経営診断。
地元の流通業に転職、25年勤務の後、現在、知的障害者の福祉施設に勤務

目 次

Ⅰ 問題の所在
 一 元気のない、閉塞した日本の社会
 二 自己主張しない日本、自己主張する国々
 三 日本の会社組織の不思議
 四 日本人とは何者か

Ⅱ 理解できない西欧の人たち
 一 理解できない西欧のサラリーマン
 二 会社の意向より規則に従う勤労者
 三 家族を大事にする生活
 四 西欧における家族・親族の位置づけ
 五 景観法という反資本主義的生活保障
 六 略奪する敵の発見
 七 敵と対峙する西欧の日常生活

Ⅲ 一神教とは何か
 一 セーフティネットとしての家族・親族
 二 君が代と世界の国歌
 三 一神教の登場の背景
 四 日本の社会は特殊か普遍か
 五 擬人化した動物社会と植物社会

Ⅳ 自然の美に生きる日本人
 一 日本の自然と洪水神話
 二 物の誕生
 三 日本人は無宗教か
 四 絶対生命
 五 日本人の生命世界のモデル
 六 日本人の戒律──もののあわれ
 七 生命活動の制御と均衡
 八 絶対生命の秩序
 九 物主体の人間関係
 十 争いのない世界

Ⅴ 天皇とは何か
 一 天皇とは何か
 二 生命循環の要としての天皇
 三 天皇制の歴史区分
 四 孤独な天皇

Ⅵ 自然の美を棄てた日本人
 一 近代日本を総括する難しさ
 二 明治維新と絶対生命
 三 自然の美を棄てた日本人
 四 天皇制の変質
 五 虚構、事実歪曲、情報操作、無責任が必然化する世界
 六 暴力を誘発する虚構の秩序
 七 戒律の変容、〝もののあわれ〟から〝空気〟へ
 八 理想の建前に生きる私的共同体
 九 組織の無限抱擁性
 十 制御不能の組織──既得権益の死守
 十一 制御不能の日中戦争
 十二 日本近代化の総括

Ⅶ 戦後日本と子どもの世界
 一 絶対生命と高度成長
 二 夫婦関係の変容
 三 子どもの世界の破壊──未来の喪失
 四 幼児の世界の破壊
 五 不審者が激増する社会

Ⅷ 最終章 衰弱する日本人の生命観
 一 リスクを犯す日本
 二 自由の権利に無関心な日本人
 三 狼の心を宿した日本人
 四 植物的心で動物的世界に生きるということ  
 五 植物的同調と野蛮の精神
 六 野蛮の精神の犠牲者たち
 七 欺瞞の構造
 八 自覚した日本人の選択