随想舎 

伝える 正造魂

現代に甦る田中正造

読売新聞社宇都宮支局〔編〕

 「真の文明は山を荒らさず 川を荒らさず 村を破らず 人を殺さざるべし」
受け継がれ、輝きを増す、精神のリレー。

 2013年は田中正造没後100年にあたり、渡良瀬川沿岸の各地でさまざまな顕彰活動が繰り広げられた。田中正造は足尾銅山鉱毒事件の解決を求めて奔走したことで有名だが、彼の提示した問題はそのことにとどまらず、100年後を生きる私たちに訴え続けている。それは、人権・自治の思想であり、平和の思想であり、自然との共生を求める思想である。読売新聞社宇都宮支局では、没後100年の年に年間企画として「伝える 正造魂」を長期連載した。私たちはその中に、田中正造の遺した思想や、訴えたものが、脈々と受け継がれているのを知ることができるのである。

 田中正造没後100年記念長期新聞連載!!

 「長期連載企画の狙いは、『公害の原点』とされる足尾鉱毒事件に立ち向かった正造の思想や足跡をたどるというよりも、正造に心を揺さぶられ、その精神を伝えようと実践している人々の姿を追うものだった。取材記者は、鉱毒事件の舞台となった日光市足尾地区や渡良瀬遊水地を手始めに、北海道から九州、海外にも足を延ばした。正造魂が地域に根を下ろし、広範に、脈々と受け継がれていることを肌で感じながら、関係者を訪ね歩き、取材を重ねていった」(「あとがき」より)

A5判/並製/304頁/定価1980円(本体1800円+税)
ISBN 978-4-88748-288-3
2014年2月10日 第1刷発行

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著者プロフィール

読売新聞社宇都宮支局

読売新聞社宇都宮支局 宇都宮市河原町1-4 tel028-638-4311

目 次

第一部 伝える 正造魂

今学ぶ 鉱毒救済の生涯 田中正造旧宅ボランティア 矢島俊雄
毒との闘い「思想上の父」 作家 石牟礼道子
圧政に真っ向 若き名主 田中正造大学事務局長 坂原辰男
無実の投獄 不屈貫く 秋田県大館市郷土史家 庄司博信
円熟の境地 等身大の実像へ 渡良瀬川研究会副代表 赤上 剛
命がけ郷土愛 政治家の理想 ゆかりの政治家 谷津義男・谷 博之・船田 元
足尾植樹 作家父子で継ぐ 作家・立松和平長男 横松心平
志受け継ぎ公害と闘う 元新潟水俣病訴訟弁護団長 坂東克彦
母国の環境破壊気づく アジア・アフリカの農村指導者育成 アジア学院
廃村の谷中 忘れさせない 谷中村の遺跡を守る会代表 針谷不二男
先人のように郷土に愛を 館林市立多々良中学校教諭 小貫広行
没後一〇〇年芸能でつづる姿 盛り上がる没後一〇〇年イベント
あふれる正造の人間味 熊本大学文学部教授 小松 裕
 田中正造昔話〈口語訳〉
 先人の志 北の大地に
 没後一〇〇年 加須、館林で法要

第二部 伝える 足尾再生

 東洋一の銅山 盛衰の教訓 足尾銅山製錬所
銅山の人々 写真の記憶 お抱え写真師小野崎一徳の孫 小野崎 敏
「鉱都」の繁栄 模型で再現 自動車エンジニア 星野一仁
懐かし列車 観光ひと役 鉄道研究家 岡本憲之
世界遺産への課題──先進地に見る 佐渡鉱山・富岡製糸場
公害の原点 旧松木村跡 元足尾中教諭 川田 勉
公害対策 背負う「古河」 古河機械金属足尾事業所副所長 山崎義宏
一二万人 一六万本植えた 足尾に緑を育てる会会長 鈴木 聡
岩だらけの山に森再生 森びとプロジェクト委員会副理事長 高橋佳夫
銅山の明と暗 語り継ぐ 足尾まるごと井戸端会議代表 山田 功
枯れた山 芸術が芽吹く ワタラセアートプロジェクト代表 皆川俊平
山に緑を 植樹一八年目 足尾に緑を育てる会
 煙害耐えた孤高のブナ

第三部 伝える 北海道の栃木

一〇二年前 北の大地へ入植 北海道佐呂間町への移民の子孫 千葉清美
谷中村復活 奔走した元村長 元谷中村村長茂呂近助子孫 茂呂正俊
過酷な入植刻んだ版画四〇作 小口一郎の弟子 北岡 清
寒冷地開拓六一年 再び栃木へ 佐呂間町から栃木県へ帰郷 今泉洋子
祖先の開拓たたえ新時代へ 北海道佐呂間町栃木地区
 入植の子孫 谷中村跡訪問

第四部 伝える 渡良瀬の流れ

サケ戻る清流復活 佐野市渡良瀬川にサケを放す会 飯田 進
水源求めて七時間 渡良瀬川最源流
温泉 皆で守った 水沼駅温泉センター 神山 登
治水の代償 湖底の古里 湖底に沈んだ東村草木地区 森田政直
七色に汚染 川再生 矢場川の清流を守る会会長 新藤義二
水辺で名曲誕生 作詞家 売野雅勇
泥団子でヘドロ退治 葉鹿エコクラブ代表 大塚久子
カスリーン 犠牲三二一人弔う 慰霊碑保存協議会代表 源田晃澄
遊水地自然 より豊かに わたらせ未来基金事務局長 内田孝男
自然な治水 正造の訴え 田中正造を後世に伝える会会長 佐々木斐佐夫

第五部 伝える フィリピンから

金採掘で劇薬廃棄 フィリピン北部・アンタモック鉱山
山壊す開発 いらぬ 鉱山開発を巡る闘い
コーヒー 未来の礎 コーディリエラ・グリーン・ネットワーク代表 反町真理子

第六部 伝える 正造魂

アフガンに命の用水路 ペシャワール会現地代表 中村 哲
日本式治水 砂漠を緑化 ペシャワール会現地代表 中村 哲
 先人の道 語り継ぐ
 北海道入植の子孫 「栃木の恩義に感謝」
思い一つに大行進 田中正造・未来への大行進
演じて学ぶ郷土の偉人 記念演劇「天地と共に~田中正造を生きる」ウメ役 大和田雪子
遊水池撤回 語り継ぐ恩 北川辺「田中正造翁」を学ぶ会事務局長 柿沼幸治
「健土健民」 弟子が実践 酪農学園大学名誉教授 安宅一夫
祖先の苦労 子孫は誇り 田中正造本家子孫 田中 栄
被害の現場 闘う弁護士 福島原発被害弁護団共同代表 小野寺利孝
実践を継承 霞ヶ浦再生 アサザ基金代表理事 飯島 博
 正造支えた妻の生家跡──脚光
廃村跡地で学生に講義 宇都宮大学国際学部教授 高際澄雄
総理の逸材 教えを発信 足尾鉱毒事件田中正造記念館名誉館長 布川 了
 正造新記念館、広さ三倍……きょう開館

識者座談会

 正造 人間味も魅力 坂原辰男 針ヶ谷照夫 赤上 剛 水樹涼子