随想舎 

オカリナを吹く少年

寺崎 ちえこ

 少年のナイーブな感性をやさしく包み込んだ待望のファンタジーロマン!!
 しんの後に続いて、樫の木から夜空に向かって両手を伸ばすと、瞬間的にフッと体が宙に浮いた。しんの吹くオカリナの、風に乗った爽快なメロディーが、ぼくを広大な空の旅へと誘う。翼をイメージして両手を広げると、まるで鳥になった気分で夜空に舞い上がった……。
 病気で亡くなった双子の妹に会うために、ぼくはオカリナを吹く不思議な少年と夜空へ旅立った……。

 年を重ねていくごとに、何気なく過ごしていく日々が、実はすごく貴重なことなのだと気づかされる瞬間がたくさんあります。そんな思いが強くなったのはここ数年のことです。
 私が福祉の仕事に携わり、多くの方たちとの出会いや別れがあったからでしょうか。心や身体に障害を持った方たちとの出会いは、正直私にとって衝撃的なものでした。内心とても気の毒にも思いました。しかし徐々に触れ合っていくうちに、本当にかわいそうなのは、彼らをそんなふうにとらえていた自分自身だということに気づきました。
 私がそうした優しい方たちを見送ったとき、その究極の寂しさとともに、また心はこの上ない感謝の気持ちでいっぱいになりました。そしてその感謝の気持ちにどう答えたらいいのか自問自答を繰り返しながら、気がつくといつの間にかノートに向かい、ペンを走らせていました。そして、出来上がったのがこの作品なのです。(「あとがき」より)

 日本文学館出版大賞特別賞・コスモス文学賞奨励賞授賞作

四六判/上製/112頁/定価1100円(本体1000円+税)
ISBN 978-4-88748-237-1
2011年5月10日 第1刷発行

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著者プロフィール

寺崎 ちえこ  てらさき ちえこ

 1958年栃木県生まれ。
 1981年三世帯同居の旧家に嫁ぐ。その後二男に恵まれ、1997年長男の高校受験を機に小説を書き始める。
 1999年「蒼い旅人」でコスモス文学賞児童小説部門において文学賞受賞。2003年「夢見る郷」で同新人賞、2007年『水色のグラウンド』(文芸社)で同文学賞受賞。
 本書にて2010年日本文学館出版大賞特別賞、2011年コスモス文学賞奨励賞受賞。他著書に『黄金のなみだ』(新風舎)、『れいん』(健友館)がある。
 現在 栃木県栃木市在住。精神障がい者地域活動支援センター生活支援員、介護福祉士。

目 次

 プロローグ

 夕日が沈む部屋

 オカリナを吹く少年

 若葉がくらした部屋で

 夜空の旅

 思いがけない再会

 オレンジの光の世界へ

 「ドリーム・セレクション」

 夕日を駆ける少女

 いじめっ子なんかじゃない

 届けられなかった手紙

 別れのとき

 エピローグ

 あとがき